クレジットカード不正利用の増加と課題
JCBのクレジットカード不正対策の取組
JCBは、クレジットカード業界のリーディングカンパニーとして1990年代からクレジットカードの不正対策に積極的に取り組んできた歴史があります。当時カード会社の多くがクレジットカードの不良債権は債権管理(回収管理)の問題として捉えていた時代にあって、売上時点の販売管理の問題として捉え、現在のアルゴリズムにも生かされている不正カード利用の傾向、特徴を基に早い段階でカード不正を検知していました。また、養子縁組等で改名を繰り返し不正にカードの発行と乱用を行っていた不良ユーザーについては個別に追跡を行っていた経緯もあります。
クレジットカード不正利用被害の現状

近年、クレジットカードの不正利用被害は増加傾向にあります。2022年の被害額は437億円に達し、2023年にはさらに541億円に増加しました。2024年上半期の予測によると、被害額は268億円に達するとされています。このような状況は、クレジットカードを利用する消費者やカード会社にとって深刻な問題となっています。
不正利用の手口には、カードの盗難や偽造といった犯罪だけでなく、不良加盟店による過剰な請求、いわゆる「ぼったくり」も含まれます。これらの問題は、多様化するオンライン取引や非対面取引の増加により、さらに複雑化している状況です。JCBカード株式会社も、このような脅威に直面しており、対応策の強化が求められています。
JCBカードが直面する課題
JCBカードが直面している主な課題の一つは、クレジットカードの不正利用被害をいかに迅速かつ効率的に防ぐかという点です。不正行為の多くは高度に組織化されており、その手口も巧妙化しています。不正を見逃さずに検知する一方で、正当な取引に干渉しないバランスの取れた対策が求められています。
さらに、カード会員数や加盟店数が増加している中で、セキュリティの維持と利便性の両立も大きな課題となっています。例えば、JCBの会員数は過去10年間で約2倍に増加し、2021年には約1億1700万人に達しました。この大規模なネットワークにおいて、不正取引をリアルタイムで検出しつつ、迅速な対応を行うことは容易ではありません。
最新システムで挑む!JCBカードのAI不正利用検知の全貌
AIが革新する不正検知の仕組み
JCBカードは、日本国内および海外で広く利用されるクレジットカードを提供しているため、不正利用のリスクに常に晒されています。不正利用の主な課題は、盗難やカード偽造といった犯罪行為の他に、一部の加盟店による過剰請求のような不正取引があります。これらの行為は単に経済的な損害をもたらすだけでなく、利用者からの信頼を損ねる可能性も秘めています。2023年には、不正利用による被害額が541億円に達し、直近の傾向はますます深刻化しています。このような背景から、不正利用検知をより迅速かつ正確に実施する仕組みの構築が急務となっています。
AI導入の背景と目的
JCBがAIを導入した背景には、従来のルールベースの不正検知手法では、巧妙化する不正利用パターンを十分に捉えられなくなってきたという課題があります。また、不正利用の検知を迅速化することで、被害の早期発見と速やかな対応を実現することが求められていました。この目的のために、AI技術を活用することで、ビッグデータをリアルタイムで分析し、潜在的な不正パターンを高精度で検出する仕組みを整えました。これにより、顧客の安心感向上とJCBブランド全体の価値を高めることが期待されています。
不正パターンの分析と機械学習の活用
JCBの不正検知システムは、機械学習を用いた高度なデータ分析を強みとしています。信用取引データやトランザクションデータを収集し、そこから不正利用のパターンを抽出するモデルを構築しています。ニューラルネットワークとルールベースのモデルを組み合わせることで、不正利用の検知精度を向上させています。また、不良加盟店の検出にも特化したAIエンジンを搭載し、特定の取引内容や挙動の異常性を即座に判断することが可能となっています。
AIによるリアルタイム監視の実際
AI技術により、JCBは24時間365日体制でクレジットカードの不正利用をリアルタイムで監視しています。AIは過去のデータから学習を行い、通常の取引から逸脱した不審な行動を即座に検知します。例えば、大量の短期間での購入や、普段利用しない地域での高額決済など、機械的なアルゴリズムに基づく分析により、高速かつ的確に異常を察知できます。こういったプロセスにより、迅速な対応が可能となり、不正利用被害の拡大を未然に防いでいます。
従来手法との違いとAIの優位性
従来の不正利用検知手法では、固定的なルールや人間による確認が主な手段でした。そのため、ルールに当てはまらない新しいタイプの不正には対応が難しく、誤判断による正常な取引の拒否や対応遅れが問題となることも多かったです。一方、AIを活用したJCBのシステムでは、過去の膨大なデータを基に学習したアルゴリズムが、高い精度で不正取引を検出します。また、機械学習モデルが継続的に進化するため、新たな不正パターンにも柔軟に対応できます。これにより、不正利用の検知精度が向上し、顧客利便性の向上にも寄与しています。
JCBのAI不正検知システムの特徴
「MATTE」とは何か?その役割に迫る
「MATTE(マッテ)」は、JCBが導入した不正取引情報のリアルタイム連携システムです。このシステムは、クレジットカード取引における不正利用を迅速に検知する目的で開発されました。不正利用の検知は従来の処理では時間がかかることもありましたが、「MATTE」ではリアルタイムでデータを共有することで、犯罪や不正加盟店からの搾取リスクを大幅に軽減することが可能となりました。
さらに、「MATTE」はJCBブランドに限らず、三井住友カード株式会社をはじめとした他の国際カードブランドとも連携が可能です。これにより、業界を横断したデータ共有が実現し、シームレスに不正情報を管理できるようになっています。「MATTE」は、JCBの不正利用対策の柱であり、クレジットカード利用者の安心と業界全体の健全化に大きく貢献しています。
AI不正検知スコアリングの仕組み
JCBでは独自のAI不正検知スコアリングの仕組みを採用しています。この仕組みは、機械学習モデルを活用して取引パターンをリアルタイムで分析し、通常時とは異なる異常な取引を自動的にスコアリングします。不審な取引は高スコアとして分類され、さらに詳しい調査が実施される流れになります。
特に、複雑なニューラルネットワークを駆使して構築されたモデルにより、頻繁に変化する不正利用の手口にも柔軟に対応できることが特徴です。また、このスコアリングは、不正な取引が発生する前に予兆をキャッチすることもできるため、迅速な対応につながる仕組みとなっています。
加盟店とカード発行会社を繋ぐ連携システム
クレジットカードの不正利用対策として重要なのが、加盟店とカード発行会社の連携です。JCBでは、「MATTE」やAIを活用したシステムを通じて、これらの関係者間で素早く情報を共有できる環境を整えています。不正利用と思われる取引がシステムで検知されると、加盟店やカード発行会社に即時通知が送られ、二次被害の拡大を防ぐ仕組みを構築しています。
また、加盟店登録プロセスでも、AIを駆使した審査体制を導入することで、不正リスクのある加盟店を早い段階で特定できるようになりました。このような連携システムの強化によって、JCBはカード利用者にとってより安全な決済環境を提供しています。
24時間365日の監視体制が可能に
AI不正検知システムの採用により、JCBでは24時間365日の監視体制が実現しました。従来、人の手に頼る監視では限界があり、不正行為が深夜や休日に発生した場合には対応が遅れるケースも見受けられました。一方でAIを活用することで、時間帯に関係なく膨大な取引データをリアルタイムに監視し、不審な動きを即時に察知することが可能です。
これにより、取引データ内に潜む不正パターンを早期に発見し、迅速な対応につなげることができます。この万全な監視体制は、クレジットカード利用者の安心感を高め、JCBブランドへの信頼性向上の一助となっています。
不正利用検知後の迅速な対応フロー
不正利用が検知された際、JCBではスピーディーな対応フローを策定しています。AIシステムが不審な取引を迅速に特定した後、即座に加盟店やカード発行会社に連絡が行われます。その後、人間の専門スタッフがAIの判定データを精査し、最終的な判断を下すと言われています。不正利用が確認された場合には、該当カードの利用停止や、加盟店との取引の一時凍結などが迅速に実行されます。
また、カード利用者に対しては、メールや電話で即座に通知が行われるため、被害額を最小限に抑えることができます。この迅速な対応フローは、2023年以降のクレジットカード不正被害額の抑制に一定の成果を上げており、JCBの不正利用対策の重要な要素となっています。