カードローン契約における金銭消費貸借契約の成立時期
要物性に基づく借入の都度金銭消費貸借契約が成立するとの考え

従来、金銭消費貸借契約は要物契約であるとされ、そのため、カードローン契約の基本契約に基づき貸付の都度独立した金銭消費貸借契約が成立すると考えられていました。その根拠として、カードローン契約という基本契約について当初は次の二つの説が有力であったことも影響しています。
貸付予約契約説
この説に基づくと、カードローン契約は、将来の貸付を受ける権利を予約する基本契約と考えます。
- 根拠:借主が必要な時にカードを利用して借入れできる点が、貸付を予約しているように見える。
- 特徴:個々の借入れ(キャッシングなど)は、予約された貸付に基づく個別契約として成立する。
包括的金銭消費貸借契約説(実務上有力)
この説では、カードローン契約そのものが包括的な金銭消費貸借契約とみなされ、利用者が借入れを行うごとに貸付が実行されると考えます。
- 根拠:カードローン契約の締結時点で、すでに貸金業者が貸付ける義務を負っているとは言えず、利用者の意思によって貸付が発生する。
- 特徴:カードローン契約自体が貸付を約束するものではなく、利用時にその都度、新たな貸借関係が成立する。
以前は、貸付の内容も貸付の都度支払回数を定める元利均等返済であったことも個別の金銭消費貸借契約とする根拠になったと考えられます。
継続的契約としてのカードローン契約
しかし、近年の判例や学説では、以下の通りカードローン契約を基本契約とする継続的な金銭消費貸借契約であるという見解が有力になってきました。これは、カードローン契約に基づき反復継続的に貸付が行われることから、個々の貸付を独立した契約としてではなく、一体の取引関係とみなすべきであるという考え方に基づいています。近年のカードローンにおいては支払方式はリボルビング払いが専らであり、貸付日は異なっても返済は合計残高に対して一定の金額を支払うということで貸付毎の返済が定められておらず、返済金額の内訳も不明であることから個別契約と見做されない理由と思われます。
継続的金銭消費貸借契約説
これは、カードローン契約を継続的な取引を前提とする基本契約と見做す考え方です。
- 根拠:クレジット契約やリボ払いなどと同様に、カードローンも「一定の枠内で継続的に借入れ・返済を繰り返す」契約であり、一つの包括的な契約として整理できる。
- 特徴:貸付予約とは異なり、契約自体が貸付の枠組みを定め、その範囲内で利用者が自由に借入れ・返済を行うものとされる。
時効の進行と起算日の解釈の変遷
個別契約成立説に基づく過払金の返還請求権の消滅時効

要物契約の性質から貸付ごとに金銭消費貸借契約が成立し、各々の契約毎に完済から10年を経過すれば過払い金の返還請求権の消滅時効が成立することになります(民法166条1項1号)。
この考え方は、契約ごとの独立性を重視する見解に立脚しており、借主が一定期間継続して借入れを行っていた場合でも、各貸付がそれぞれ独立した契約であると捉え、完済時点で時効が進行するというものです。
継続的契約としてのカードローン契約の消滅時効
しかし、その後の判例や学説により、カードローン契約は基本契約を基盤とする継続的な契約であると解釈され、時効の起算点に関する見解が変化してきました。この解釈に従えば、カードローン契約に基づく貸付の最終的な完済がなされるまで、過払い金返還請求権の時効は進行せず、最後の返済から10年が経過した時点で初めて時効が完成することになります。この考え方は、最高裁判例(最判平成19年7月13日)にも示されており、借主と貸金業者との間の取引が継続的なものである場合、最終取引日を基準として時効が進行することが示されています。
「基本契約の解約がなければ時効は進行しない」とする新説
さらに近年では、カードローン契約という基本契約が解約されていない限り、たとえ支払いが完済していても時効は進行しないという解釈が提起されています。この解釈の根拠としては、基本契約が存続している限り、借主は再度借入れを行う可能性があり、法的な関係が完全には終了していないため、時効の進行を開始する前提が満たされていないとする考え方があります。この解釈が認められれば、貸金業者にとっては過払い金返還請求のリスクが長期間継続する可能性がある一方、借主にとっては時効の進行が阻止され、救済の可能性が拡大することになります。
上記のような新しい解釈について、現時点では確立された最高裁判例は存在しませんが、下級審判例では基本契約の解約が時効の起算点に影響を与える可能性を示唆する判例も3例程度あります。
例えば、「継続的取引が終了したと認められるのは、基本契約が終了し、かつ、最終取引が行われた時点である」と判示し、基本契約の終了が時効の起算点に関わる可能性を示唆しました。また、学説の中には、基本契約が存続している限り、利用者は再度借入れを行う可能性があるため、法的関係が未清算の状態にあると解釈し、時効の進行を否定する見解もあります。
さらに、基本契約の解約についてはローン会社が一方的に解約するだけでは足りず、借受人に通知もしくは同意を得る必要があるとの考え方もあります。一般に、ローン会社は、支払いが滞った場合のみ一方的に強制停止(強制脱会)を手動・自動で行っており、支払いが正常な利用者については利用停止処置は行っていないのが実情です。
今後の展望
以上を整理すると、カードローン契約の時効に関する解釈は、伝統的には個々の貸付ごとに時効が進行する(要物契約説)との考え方でしたが、近年では継続的契約として、全ての借入の最終完済時から時効が進行すると解釈される(継続的契約説)ように変化しています。
さらに、最近では、基本契約が解約されない限り時効が進行しないとの解釈も浮上しているという3つの段階で変遷してきました。但し、この新しい考え方については、現時点では、最高裁判例による確定的な判断が下されていないため、今後の判例や法改正の動向が注目されます。今後、基本契約が未解約の場合に時効が進行しないとする考え方がどの程度受け入れられるかは、実務上大きな影響を及ぼす可能性があります。
今後の判例や立法動向を注視しつつ、借主・貸主双方の利益のバランスを考慮した法的議論が求められます。