民法典は、単なる「民法」ではなく「典」という字が付されている点に特徴があります。もともと「典」という言葉には、成文化された公的な規範、すなわち国が正式に制定した法の体系という意味が込められています。したがって、「民法典」とは、私人間の権利義務関係を定めた法律群を、一定の理念と体系に基づき、網羅的かつ整然と編纂・制定した成文法を指す言葉です。単なる「民法」という場合には、一般に民事関係の法規の一つを意味するに過ぎませんが、「民法典」と称することで、その体系的・総合的な完成度を強調しているのです。「典」という字は、広い範囲にわたる重要な規範を、体系的にまとめたものに使われる表現でもあります。民法典は、単なる契約法や財産法だけではなく、親族や相続といった家族関係にまで及びますので、私人間の法律関係全体を包括的に規律するものとなっています。そのため、個別的な法規とは異なり、「民法」という単なる一種の法分野ではなく、さまざまな内容を組み合わせた大規模かつ組織的な法律群として「民法典」と呼ばれています。
日本における民法典、すなわち「日本民法」は、1896年(明治29年)に制定され、1898年(明治31年)に施行されました。その条文は、全部で約1,000条にも及びます。内容は、大きく五つの編に分かれています。すなわち、総則編、物権編、債権編、親族編、相続編です。総則編は、民法全体に共通する基本原則や用語の定義を定め、物権編は所有権や担保権などの物に対する権利関係を、債権編は契約や不法行為に基づく債務関係を規律しています。そして、親族編と相続編は、家族関係や相続に関する規定を定めています。
民法典の特徴としては、まず第一に、「私的自治の原則」に基づいている点が挙げられます。これは、私人間の法律関係は、基本的に当事者の自由な意思により形成されるべきであるという考え方で「契約自由の原則」が保証されています。第二に、「権利能力平等の原則」が貫かれており、すべての人は等しく権利・義務の主体となり得ることが定められています。さらに第三に、一定の場合には社会的正義や公益の観点から、自由を制限し調整する規定も置かれています。たとえば、契約自由の原則に対して、公序良俗に反する契約は無効とする規定がこれにあたります。
また、日本民法典は、フランス民法典やドイツ民法典の影響を受けつつ、日本固有の家族制度や社会構造にも配慮して編纂されたため、単なる外国法の模倣にとどまらず、独自性を備えています。その後も、社会の変化に応じて幾度か改正され、とりわけ近年では、債権法や相続法の大幅な改正が行われ、現代社会に適合した内容に刷新されています。
このように、民法典とは、私人間の関係を規律するために網羅的かつ体系的に成文化された法律であり、その名称や内容には、歴史的・法理論的な背景が色濃く反映されているのでございます。